ジョー・バイデン大統領は、就任の1か月以上前の12月中旬に、サイバーセキュリティが政権の「最優先事項」になると宣言しました。
当然のことです。デジタル社会は、私たちが日々思い知らされているように、良くも悪くも現実世界に直接影響を与えます。ほんの一世代前にはSF的な夢のようなものだった利便性と能力を実現する一方で、プライバシー、身体的安全、個人/企業/国家の安全に脅威をもたらします。
新政権の最初の100日間(いわゆる新大統領のハネムーン期間)が終わり、バイデン大統領はチームを結成し、少なくとも、いくつかの外国の攻撃に対応し、戦略の構築に着手しました。
選挙で選ばれた公職者には周知の事実ですが、約束をすることは簡単です。でも、その約束を守ることは複雑で困難な道のりになる可能性があります。この事実はこの問題の場合に特に当てはまります。バイデンがサイバーセキュリティに目立った変化をもたらすことに成功すれば、それを実現した最初の大統領になります。
前任者たちがその試みに挑戦しなかったわけではありません。バイデンは、ビル・クリントン以来の歴代の米国大統領から山積みの行政命令とイニシアチブを受け継いでいます。それは「意図的な攻撃から国のコンピュータネットワークを保護するための史上初の国家戦略」と銘打って2000年に発表された国家情報システム保護計画に始まります。
直近では、トランプ政権下で、2018年12月に「サイバー・セキュリティ・ムーンショット」が提案され、2020年3月には米国サイバースペース・ソラリウム委員会による182ページの報告書で「階層化されたサイバー抑止」戦略を実施するための80以上の勧告が提案されました。
「私たちがやろうとしているのは、9/11のない9/11委員会の報告です」委員会の2人の共同議長の1人、アンガス・キング上院議員(メイン州)は当時『Wired』誌にこう語りました。「私たちは問題が災害に変わる前に解決することを目指しています」
あれから20年が経ち、インターネットが自動車やテレビのように現代生活に組み込まれるようになった現在も、様々な善意の政策構想が発表されているにもかかわらず、サイバーセキュリティの専門家は、未だにサイバー空間が安全でセキュアであるとは言いません。
連邦レベルでのサイバーセキュリティの失敗によってバイデン政権の課題が明らかになりました。
こうした事態は、バイデン政権が早々に解消しなければならない、または少なくとも立ち向かわなければならない、様々な火種を残しました。数週間前、バイデン大統領は、SolarWindsへの攻撃および2020年の選挙への干渉に対するロシアへの制裁を発表する行政命令を発しました。制裁には10人のロシア外交官の国外追放が含まれていました。
ロシアは10人の米外交官の追放を即座に発表し、8人の米当局者を制裁リストに追加するとともに、ロシアで活動する米国の非政府組織の活動を制限すると述べました。これまでのところ、中国に対する制裁の発表はありません。
さらに、次の発表がありました。
この発表に対するサイバー・セキュリティ・コミュニティからの反応は、これまでのところ賛否両論です。CrowdStrikeの共同創設者・元CTOで、現在はシルバラード・ポリシー・アクセラレーター(Silverado Policy Accelerator)の会長を務めるドミトリー・アルペロビッチ(Dmitri Alperovitch)氏は、バイデン大統領が指名したメンバーを「サイバーセキュリティのドリームチーム」と称しました。
しかし、サイバーセキュリティのための資金に関しては、不十分だという批判があります。
インフラ法案でCISAにマークされた6億5000万ドルは大歓迎ですが、CISAと密接な関係を持つ元下院情報委員会職員のアンディ・カイザー(Andy Keiser)氏は、庁内は「過労と人手不足が深刻化し、無鉄砲な戦いを挑んでいるようなもの」と『Politico』誌に語っています。
ロシアへの制裁に対しては直ちにロシアからも対抗措置が発動され、米国政府に侵入し大量のデータを盗んだことへの具体的な処罰というよりも、双方の象徴的行動のように見えました。
何年も前から、米国も同様にサイバー攻撃を利用して敵を積極的にスパイしている可能性が高いと言われています。
サイバー戦略に関しては、これまでの政権から受け継いだ定石が確立していることを考えると、バイデンはゼロから始める必要はないと専門家は言います。
Anomaliのサイバーインテリジェンス戦略ディレクター、AJ Nash氏は、『Security Week』への投稿で、数ある報告の中で一番まともなものは、およそ1年しか経っていないソラリウム委員会の報告書であり、「重要な変更に対する大胆な勧告は、バイデン大統領が米国のサイバー空間上の作戦を再編するための青写真として使用する可能性が高い」と述べました。
その報告書の中には、米国のサイバー戦略を更新し、「1人の最高責任者」の指揮下に置く必要があるという勧告があります。
人選、資金調達、戦略が整えば、あとは政権が計画をどれだけうまく実行できるかにかかってきます。壮大なプランよりも基本に重点を置くべきだと言う専門家もいます。
シノプシスの主席コンサルタントを務めるMichael Fabianは、昨年、サイバーセキュリティ・ムーンショットの提案に関して、「情報セキュリティ全体にわたり、変革より基本を重視する必要があります」と指摘しています。
また、バイデンのイニシアチブに関しては、基準の厳格化が効果を発揮するには、十分な資金と責任規定が必要だと言います。企業の手ぬるいサイバーセキュリティのために大勢の顧客の個人情報や財務情報が侵害された場合、怒号だけでは済まされません。上級幹部や株主は釈明に苦労するだろうと、Fabianは言います。
Synopsys Cybersecurity Research Centerの主席セキュリティ・ストラテジスト、Tim Mackeyは、変革は必要ではなく、少なくとも「ファイアウォールの強化」という時代遅れのモデルから、「アプリケーションの脆弱性と、アプリケーションを操作する人とプロセスの脆弱性」に焦点を移す必要があると指摘します。これはセキュリティチェーンの最弱リンクへの対処を重視することを意味し、その対象はおそらく地方自治体/州政府レベルになるとも言います。
攻撃者が「国や地方自治体が運用するシステムを、破壊的な混乱を起こす標的と見なすならば、標的となる連邦政府のサーバーのセキュリティがどれほど整備されているかは問題ではありません」とFabianは言います。
つまり、「国家規模の攻撃を防ぐために限られた地方予算に頼るのではなく、コミュニティの問題」に連邦政府の資金を投じる方が得策だと、Mackeyは言います。「このような投資は、米国救済計画の10億ドルの技術近代化資金、CISAを通じて州政府、地方自治体、部族政府に提供されるサービス、行政命令で提示されたサイバーインシデントに続く開示と透明性の向上、バイデン大統領が提案したインフラ整備構想に規定されている重要なデジタルインフラの近代化への取り組みなど、様々な形で行われます」